スクラムガイドの「確約」
とりとめもなくメモ的に書く。
スクラムフェス大阪2025でジム・コプリエンに説教された
- 「スクラムガイド」のcommit/commitmentの日本語訳を「確約」にしているが、これはpromise(約束)の意味なので間違いである
- スクラムのような不確実な世界では、未来を予測できないのだから、何かを「約束」することはできない
- (現代物理学では因果関係は不確定みたいなことも言っていたが、よくわからんかった……)
- 言い換えれば、promiseは結果責任(accountability)であり、commitmentは実行責任(responsibility)である
- また、commitmentには心から取り組むという意味合いもある(当事者意識)
- マネージャーが『スクラムチームは結果を「約束」している』と思ったらかなり厄介である
- 結果責任は「反省」を促すだけだが、実行責任は「検査と適応」につながる(なのでスクラム的である)
- (結果責任が「反省」だけになるのは、結果にのみフォーカスして過程に目を向けないからか?)
(任意)スクラムガイドの現状確認
- (1) Successful use of Scrum depends on people becoming more proficient in living five values: Commitment, Focus, Openness, Respect, and Courage
- スクラムが成功するかどうかは、次の 5 つの価値基準を実践できるかどうかにかかっている。確約(Commitment)、集中(Focus)、公開(Openness)、尊敬(Respect)、勇気(Courage)
- (2) The Scrum Team commits to achieving its goals and to supporting each other.
- スクラムチームは、ゴールを達成し、お互いにサポートすることを確約する。
- (3) Developers are the people in the Scrum Team that are committed to creating any aspect of a usable Increment each Sprint.
- 開発者はスクラムチームの一員である。各スプリントにおいて、利用可能なインクリメントのあらゆる側面を作成することを確約する。
- (4) Each artifact contains a commitment to ensure it provides information that enhances transparency and focus against which progress can be measured:
- 各作成物には、透明性と集中を高める情報を提供する「確約(コミットメント)」が含まれている。これにより進捗を測定できる。
- (5) 3つの確約:
- Commitment: Product Goal / 確約(コミットメント):プロダクトゴール
- Commitment: Sprint Goal / 確約(コミットメント):スプリントゴール
- Commitment: Definition of Done / 確約(コミットメント):完成の定義
- (6) These commitments exist to reinforce empiricism and the Scrum values for the Scrum Team and their stakeholders.
- これらの確約は、スクラムチームとステークホルダーの経験主義とスクラムの価値基準を強化するために存在する。
- (7) Although the Sprint Goal is a commitment by the Developers, it provides flexibility in terms of the exact work needed to achieve it.
- スプリントゴールは開発者が確約するものだが、スプリントゴールを達成するために必要となる作業に対しては柔軟性をもたらす。
こちらからの回答と考察(うまく英語で伝えられなかったので、ここにまとめている)
- 回答:「確約」がベストの訳語だとは思っていないが、他にないのでこれでいい。どうしても必要なら注釈を入れる。
- 「確約」の辞書的な意味:
- 大辞林:必ず実行するとはっきり約束すること。また,その約束。
- 新明解国語8:将来 必ず実行するという約束(をすること)。
- 辞書的には、promiseのように結果責任だけではないことがわかる
- つまり、確約 = commitment + promise になっている
- ここから promise の成分(結果責任)を抜きたいってこと?
- 実行責任のみを強調したいのであれば、「努力」や「尽力」でも良さそう(辞書的には「関与」もある)
- 使用例: (2) 〜ゴールを達成し、お互いにサポートしようと努力/尽力/関与する、(3) 〜作成することに努力/尽力/関与する、(5) 努力目標:プロダクトゴール、(7) スプリントゴールは開発者が努力/尽力/関与するものだが〜
- しかし、プロダクトゴールやスプリントゴールが「努力目標」になると、なんだか無責任な響きがする
- 「ぼくたちがんばりまーす」で本当に実行できるのか?という感じ
- あるいは「スプリントゴールは努力目標なので達成できなくてもいいよ」という感じ
- 不確実なんだから仕方ないと開き直るのがスクラムか?(まあ、それならそれでもいいけど)
- これは日本語の「努力」の響きの問題か?「commitment」にはそういう響きはなさそう
- ゴールは絶対に守らなければならないものではないかもしれないが、絶対に守らなければならないと思わない限りは絶対に守れないよ
- 実行責任のみを強調したいのであれば、「努力」や「尽力」でも良さそう(辞書的には「関与」もある)
-
日本語の観点からすると、少しでも結果責任(約束)の風味を加えないと、実行の本気度も反映されないのではないか?(←たぶんここが重要)
- 実行責任のみを表す言葉(努力/尽力/関与)では、本気度が十分に伝わらない可能性がある
- 相手を明示しない使い方ならば、結果責任(約束)が含まれていても問題ないのではないか?(自分たちに「約束」すればいい)
- Commitmentの訳語として「努力/尽力/関与」よりも本気度が高く、「確約」ほど結果責任を持たない言葉が必要
- ……ないよそんなの!
- 現状のように「確約(Commitment)」や「確約(コミットメント)」のようなカッコ書きの使い方で問題ないのではないか?
- そもそも表面的な言葉だけを見るマネージャーや、検査と適応につなげないチームの反応のほうが問題では?
- 「確約したんだから死んでもやれよ!」って言う人がいるってこと?ヤバイやつじゃん
- 「スプリントゴールを達成できなかったから反省するけど改善しない!」って言う人がいるってこと?これもヤバいやつじゃん
- スクラムガイドを一緒に読みましょうよ