[本] 『男はつらいよ パーフェクト・ガイド ~寅次郎 全部見せます

ことあるごとに寅さんの話をするんですが、あまり反応が返ってきません。国民的映画じゃなかったのかよ!! まあいいや。パーフェクト・ガイド買いました。なんとなく「いいなあ」と思っていたものが言葉になっているので、気持ちがいいです。

特に、立川志らく師匠の「寅の進化は日本独特の微妙な変化だ。」が絶品。マンネリではなく「寅さんの進化」が「男はつらいよ」の魅力だと言っています。軽くまとめてみます。

「7作目まではヤクザ。8作目で志村喬から人間の生活を教わりヤクザの匂いがなくなっていく。11、15作目でリリーと大人の恋愛を経験し、18作目で恋する人に死なれて言葉にならない哲学を得る。20作目で恋愛指南役になり、26はマドンナを娘のように見守る。29、32作目で燃えるような恋を経験し、その後は満男の恋を応援する立場に移行。40作目で自分の哲学を言葉で表し、42作目では満男の彼女(後藤久美子)の叔父に嫌味を言われても、喧嘩をせずに大人の対応をする。ラスト48作目ではリリーに最高の色男のセリフを言い放つ。」

是非、原文を読んでいただきたい。

それから、インタビューや解説を読んでいくうちに、「男はつらいよ」の魅力は4点にまとめられるのではないかと思いました。

  1. パターン(マンネリ)ではなくパターン・ランゲージが形成されている
  2. 昭和の名優・美女がたくさん登場する
  3. 毎回、日本の名所が紹介される
  4. 働くことと働かないことの狭間(a.k.a. 庶民性)が描かれている

(4) については説明が必要かもしれません。

「男はつらいよ」は日本の庶民の生活が描かれているとよく言われます。山田洋次監督も「日本人の暮らしのモデル」がそこにあると言っています。しかし、「ヤクザな腹違いの兄貴のいる叔父の団子屋」が果たして妥当なモデルなのかというと、そんなわけはないと思うんです。

では何が「日本人の庶民のモデル」なのか。それは、「生活のためには働かなければいけないが、できれば働きたくない」と思う気持ちだと思います。前者の象徴として、「くるまや」、「朝日印刷所(共栄印刷)」、そして「さくら」が配置されている。そして、その対となるのが「寅さん」です。厳密には寅さんは働いているんですが、カタギではない。

その対比にこそ「庶民性」があるんです。くるまやの間取りや人間関係の濃密さはまた別の話。そちらは、言い換えれば、単なるノスタルジーに過ぎないと思います。

あと、佐藤蛾次郎氏の

どんなシーンもおろそかにせず「自然」に、というのが山田演出

という発言にも注目しました。

不自然な場面を自然な演技でやるからいいんです。演技の側にリアリティラインが引かれている。その結果として、「生き生き」としたものになっているんですね。